点Pくらいよく動く

友達に言われたことをブログのタイトルにしました。

ミュージカル「VIOLET」

アフタートーク回を見た時に、原田優一さんから感想とかをネットに流してね!と言われたのをふと思い出したので投稿します。

 

 博多座の発券機でチケットを手に入れてから中洲川端商店街を通ってキャナルシティへ向かう。複数のどんたく隊が商店街を練り歩き「ぼんちかわいやねんねしな」を歌っていた。新しいパン屋が出来ていたので、いくつか購入して移動。

 12時と16時からキャナルシティ劇場でミュージカル「VIOLET」を見た。バイオレット役は、12時が三浦透子、16時が屋比久知奈。
 「VIOLET」の舞台は1964年のアメリカ南部。公民権法が制定された後、アメリカがベトナム戦争に本格介入する直前の話だ。「ヘアスプレー」「ドリーム・ガールズ」「ミス・サイゴン」とこの時期のアメリカを舞台にしたミュージカル作品は多い。
 父子家庭に育った主人公の白人女性バイオレットは幼い頃、不慮の事故で顔に大きな傷を負う。父親の使っていた斧の刃が飛んで顔に当たったのだ。3年前に父とも死に別れたバイオレットは、テレビ伝道師に顔の傷を治してもらうために、長距離バスで旅に出る。その過程で黒人兵士フリック、白人兵士モンティと仲良くなる。彼らや他の乗客との出会いにより、バイオレットは少しずつ変化していく……みたいな話。
 肌の色の違いが大きく主題に絡んでくる話だが、キャストにネグロイドはいない。当然のことだが、黒塗りメイクはなし。演出家の藤田俊太郎は、ラグタイムではこの問題を衣装の色合いで区別していたが、今回は冒頭で黒人役を演じる役者3人が舞台上に現れ(台詞は発せずマイムで演技)、その上に実際の黒人解放運動の映像を投射していた。これがあったのと、作中では白人から黒人に対する様々な差別が描かれるので混乱はしなかった。なお、バイオレットは顔に大きな傷がある設定だけれども、演者の顔に傷メイクはされていない。
 舞台装置は真ん中に盆がひとつあり、ここがバスの車内となり、ホテルの一室となる。大掛かりなセットはそこまでなかったが、ところどころで映像が印象的に使われていた。脚本では、25歳のバイオレットの旅と並行して、幼いバイオレットと父親の過去のやり取りが描かれる。

 バイオレットは、顔のことで深く傷ついているので、あらかじめ言われるであろうひどい言葉を想像して現実に備える悪癖を持っている。自己防衛がいきすぎて、はたから見れば自意識過剰にとれる発言をしてしまうくらいだ。差別される気持ちは分かるから、あなた(黒人のフリック)のことも分かると言ってしまったり、自分のなりたい顔を上げていく過程で、黒人と顔を入れ替えてどうするのと漏らしてしまったりと、悪気はないもののやらかすシーンが多いので肝が冷えた。自分が実生活で彼女と同じことをしていないと言い切れないあたりが怖い。三浦透子は声がハスキーでかなり落ち着いた雰囲気で抱擁力があった。屋比久知奈はハリのある明るい声なのでカラ元気を出しているように見えた。

 東啓介演じるフリックは日常的な差別に傷ついているが、殆どのことを受け流す度量を持っている。それだけにあるシーンで激昂するさまが切なかった。立石俊樹演じるモンティは子どもっぽいところが憎めなくて良かった。彼は白人だが裕福ではないので、黒人のフリックが置かれた立場を理解していて、怒れないフリックの代わりに周りに毒を吐いたりする。いいコンビ。
 この3人のキャラクターが三角関係になったりするのだけれども、バイオレットのキャストが変わると3人の雰囲気がガラッと変わるものだから面白かった。三浦透子回はどこか静かでそれぞれの心情がじわじわ伝わる感じ、屋比久知奈回は、もっと輪郭がくっりしてしていてロマンス要素を強く感じた。立ち位置や細かい部分での動作が違ったり(三浦バイオレットは自分の連絡先の書かれた紙をフリックから取り返したが、屋比久バイオレットは、取り返す前にフリックが紙を握りつぶして床に捨ててしまうので取り返すことができなかった。後者の方がフリックの独占欲を強く感じた)していたので、続けて見て良かったと思う。
 アクの強いテレビ伝道師役は原田優一。テレビのゴスペルショーシーンの顔芸が壁全体にデカデカとリアルタイムで投射されるのがめちゃくちゃ面白かった。見た目がものすごく胡散臭いのでバイオレットが傷つくようなひどいことを言わないだろうかと心配に思いつつ見ていたのだけれども、かなりまともなアドバイスをしていて、見た目で判断してすみませんでしたという気持ち。小さなトラックから伝道を始めて、最初は本当に奇跡が起こせたし、KKKとも戦ってきたが(彼の聖歌隊には黒人歌手がいる)、今の自分は疲れ切っていると吐露するシーンは辛かった。
 一番泣かされたのは、バイオレットの父親役のspiの演技。起こったことは変えられないけれども娘が1人で生きていくためにできることをしてやりたいという不器用な親心がひしひし伝わってきた。声の厚みが素晴らしかった。
 谷口ゆうなとsaraのブラックミュージック歌唱も素晴らしくて魅了されたし、樹里咲穂の芸達者ぶりにも圧倒された。少数精鋭。

 マチソワの間に、目が腫れていないか気にしつつサイゼリヤでサラダとラムステーキを食べた。食事を終えて外に出ると、聞き覚えのある歌声が噴水広場いっぱいに響いていて、張り紙を見ると山崎育三郎がアルバムのプロモーションで来ているらしかった。ちゃんと見られる場所へは整理券がないと入れないので何も見えなかったけれども、得した気分。