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友達に言われたことをブログのタイトルにしました。

宝塚雪組公演 双曲線上のカルテ@ライブ配信

2023年9月3日(日)

16時から配信で、宝塚雪組公演「双曲線上のカルテ」を見た。あらすじは以下の通り。


渡辺淳一の医療小説の傑作「無影燈」を、イタリアに舞台を移しミュージカル化した作品。

一流の腕を持つ外科医でありながら、エリートコースを捨て個人病院で働くフェルナンドは、夜勤中でも酒を飲み、数々の女性と浮名を流す異端児であった。孤独な影を秘め、常識にとらわれない行動で病院内に多くの敵を作るフェルナンドだったが、彼なりのやり方で真摯に患者と向き合う姿に、看護師のモニカは次第に恋心を抱くようになっていく。だが、フェルナンドは、ある秘密を抱えていた……。フェルナンドとモニカの恋愛を軸に、真の医療とは、愛とは、そして命とは……という深遠なテーマを真正面から描き出すヒューマンドラマ。』


 役者はみんな良かったけれども、脚本が完全にNOT FOR MEだったので、以下、感想というより悪口になってしまった。この作品が大好きで感動してボロ泣きしたという方は読まないで欲しい。それがお互いのためです。これまで見てきた宝塚歌劇作品の中でもダントツ一番で合わなかった。スターさんを釣り餌として観客にこの価値観をすり込むのは罪が深いのでは?と思ったくらい合わなかった。

 

 

 原作者が原作者なので仕方ないのかもしれないが、とにかく男性にとって都合がいい展開が多くて頭がくらくらした。

 主人公フェルナンドが務める病院の院長セルジオは、前院長の娘ロザンナと結婚してクラリーチェという一人娘をもうけている。妻の尻にしかれつつも普通にうまくやっているように見えるが、看護師長と現在進行形で不倫関係にある。結婚前に付き合ってた酒場経営者のアニータは、実はセルジオとの間の子を出産していていたのだが、セルジオにはその事実を伝えず息子を成人まで育て上げている。セルジオは、隠し子の存在は知らないがアニータの酒場を贔屓にしているので付き合いが切れたことはなさそう。

 この設定の時点でうわぁ……と思っていたのだけれども、セルジオの一人娘クラリーチェが再生不良性貧血と診断され骨髄ドナーを探す必要が出てきたタイミングで隠し子の存在が発覚し、その隠し子アントニオから骨髄移植を受けてクラリーチェが回復するという展開になったので心底ゲンナリした。ご都合展開にも程があるし、種まき散らしておいてよかったね!男の本能だから仕方ないよね!とでも言いたいのか?と思ってしまった。

 隠し子の存在が発覚してもセルジオは妻から1発殴られるだけでギャグとして処理されるし、その隠し子のアントニオは、シングルマザーとして自分を育てたアニータに向かって、セルジオに養育費や慰謝料を請求したらパパとママの恋愛に傷がつくだとかって意味不明なことを言い出すしでツッコミが止まらない。骨髄提供者と患者との間で金銭のやり取りが禁止されている件と、養育費や慰謝料の問題とをごっちゃにしないで欲しい。子どもは生まれたら勝手に育つものじゃないんだよ。手術後のクラリーチェの面倒を見ているのが、父セルジオの不倫相手の看護師長なところもグロかった。女性看護師がプロフェッショナルの医療者として描写される箇所がほぼ無いことにも閉口。

 主人公のフェルナンドが看護師モニカに対して、死に瀕した患者からのセクハラを許容してこそ一人前の看護師みたいなこと言い出す展開もどうかと思った。モニカはその場では反発していたけれども、後日、余命わずかの男性患者に抱きつかれたときには許して抱きしめ返してやるという展開になっていた。今回だけは……の積み重ねで心を病む医療従事者も多かろうに、なんだこれはという気持ちになった。

 主人公のフェルナンドが、自分の病状(末期の多発性骨髄腫)を勤め先に秘匿して患者の治療をしているのもどうかと思う。事実を知らされていなければマネジメント部門でサポートのしようが無いので、患者の不利益に繋がる可能性が高い。

 末期がん患者に病名を伝えず、胃潰瘍だと信じさせるために形だけの手術をおこなう展開も、インフォームドコンセントが徹底されている現代の感覚で見ると不合理に感じた。

 耐え難い苦痛に際して自死を選ぶのは本人の選択なので尊重したい気持ちはあるが、治験薬を使って定期的に経過を見ていた医療従事者がそれをやるんだ……って気持ちにもなった。

 何よりドン引きしたのが最後のオチ。フェルナンドは余命幾ばくもない自分に救いを与えてくれた看護師モニカと恋に落ちるが、彼女に自分の病のことは伝えない。そんなある日、同僚に2人で出かけることを伝えた上で旅行に出かけ、彼女を母親に合わせ、その直後にフェルナンドはひとりで入水自殺。モニカはその時には妊娠しており……って、彼女を人間扱いしていないにも程があると思うのだが、フェルナンドの同僚のランベルト医師いわく、フェルナンドはモニカだけを愛していたからそうしたのだそうだ。

 もう、とことん作者と気が合わない。

 相手が確実にシングルマザーになると分かっていて、その事実を隠したまま妊娠するようなやり方で性交するって、そういうのを騙し討ちって言うんじゃないのか?子どもは生まれたら勝手に育つものじゃないんだぞ?あれこれさっきも書いたな?

 積極的に育児する気も金銭を負担をする気もないが、どこかで自分好みの女が自分の子どもを生み育て自分の血が受け継がれていたらすっごく嬉しいなあって、そんなこと堂々と主張されたって当惑してしまう。

 自分の子どもが欲しいのなら、相手にすべての事情を話し、了解を得られてからことに及ぶのが最低限のマナーだし、出産で命を危険にさらすのは女なのだから当然、産まない権利も与えられるべきだと思うのだが、この作品の中ではそのどちらもが疎かにされているので、共感はできなかった。ちゃんと事情を説明した上で、それでも子どもをつくる選択をした描写があったなら心から応援ができたと思う。でも、そうはならなかった、ならなかったんだよ。ロック。だからこの話はここで終わりなんだ。

 とまあこれだけだらだら書けるくらいに脚本自体がNOT FOR MEでツッコミを入れまくりつつ見ていたものだから、本編の間は和希そらさんをはじめとするスターさんの魅力に集中することができなくて残念だった。

 アニータの兄でレントゲン技師ジョルダーノ役の久城あすさんは、プロはこうあって欲しいという落ち着いた雰囲気があり、本筋にはあまり絡まないけれどもとにかくカッコいいので、出てくる度に目を奪われた。

 一番好きなキャラクターはクラリーチェ。フェルナンドの元彼女でもあるクラリーチェが、現行の交際相手であるモニカがフェルナンドの病状に気づきそうになった際に咄嗟に嘘をつき、彼女がショックを受けないように取り計らう(マウント行為にも見えるが真意はこちらだと思う)ところは愛があって好きだったし、ラストでバリバリ仕事をしているところもカッコよかった。ランベルトとはどうなったのかについて触れられない塩梅も好きだった。

 フェルナンド役の和希そらさんは、ミステリアスで暗い色気がある役どころにぴったりの方なので、ファンの人たちはたまらないだろうなと思った。ちょっと崩れた魅力のある男を演じる和希そらは絶品だと思う。最後のパレードでは惜しげもなく色気を振りまかれていたし、カーテンコールでの「みらいびと」や「お茶の間」発言は見た目とのギャップがあってホワホワした。雪組さんの次の大劇場作品を楽しみにしたい。